コンビニ店員の幸子
第二章 死の予感
* 15
救急車の到着と同時に妻の郁恵が店に到着した。
武の胸ポケットに保険証を入れ自分は同行できない旨を救急隊員に伝える。
そして、すぐさま幸子と本部経営指導員に連絡を入れる。
一時騒然としたコンビニ店内であったが、救急車が去った後は日常の顔を取り戻した。
どんなに悲惨なトラブルが起きても普段の顔を取り戻すコンビニは「得体の知れない生き物」のように思える。
・・・
急遽出勤して来た幸子に耳元で囁いた。
「オーナーが倒れちゃって、店が大変なことになりそう。幸子さん、頼むわ。貴方だけが頼りなの」
「はい、畏まりました」幸子は満面の笑みを浮かべ頷いた。
・・・
60分ほどして本部経営指導員の佐山が女性アシスタントを連れて店に到着した。
「オーナーさん、どうされました?」
「佐山さん、どうしていいのか分からないわ。お店は終わりよ。もう無理。」
全身全霊で不幸感を表現し経営指導員の佐山を見つめる郁恵。
「奥さん、先ずはオーナーさんの状態が心配です。私、病院に行ってきますね。お店のシフトは大丈夫ですよね?とりあえず、アシスタントを一人置いておきますから、必要なら指示してください」
田村です。よろしくお願いします。
女性アシスタントの挨拶に唇を歪めて頷く郁恵は「さぁ、どうしてやろうか?」と思案を廻らせていた。
佐山はストアコンピュータで売上額を確認後、仮点検レシートを印刷し搬送先病院へ向かった。
どんな状況でも抜け目無いのね。郁恵は眉をしかめたが、直ぐ本心を隠し、哀れみと同情を引く泣きそうな顔を作り「午前シフトの今井さんがもう直ぐ出勤してきますが、引き続きよろしくお願いしますね」と幸子と田村に伝えた。
郁恵は「ふぅ」と息を吐きながら覚悟を改にした。
崩壊したこの店を継続するのは無理。
主力店員は店を去り、パートもバイトも愛想を尽かしている。この状況は直ぐに全従業員に伝わるわ。午前シフトの今井がもうすぐ出勤してくるのだから。
今後の展開を想像し、興奮する自分に驚く郁恵であった。
* 16
アシスタントの田村と幸子に店内業務を任せてある。
とりあえず、「本点検」だけ済ませて一息付いた。
1日の売上会計処理を〆る「本点検」を済ませないと面倒なことになるのだ。
田村のレジで挽きたてコーヒーホットを買い、納品品出しする幸子に声を掛けた。
「幸子さん、本当に申し訳ないのですけど、午後シフトも継続勤務でお願いできるかしら?」
幸子は、満面の笑顔で、「勿論です!まかせてください!頑張るぞー!ファイトー!」と返す。
この子って、本当に幸せな子なんだわ。きっとそうよ。この子を悪く言う武が間違っているのよ。こんな大ピンチな状況で、これだけの笑顔で愚痴も不平も嫌な顔ひとつせず仕事に励んでくれている。この子は純粋な善なる子なのよ。
郁恵は聖母の眼差しで幸子を見つめるのであった。
「奥様、いえ、店長、気を落とさないでください!オーナーはきっと無事です。神様に祈ったのですから、私の願いが届くと思います!店長!ファイト!」
幸子の続く励ましの言葉で我に返った郁恵は、「さっちゃん、ありがとう。よろしくお願いね」と労い、事務所へ戻った。
・・・・
まさか、こんな事態になるとは。。。
郁恵の脳裏にサリエリの少年時代がフラッシュバックした。
映画「アマデウス」の1シーンだ。
F・マーリー・エイブラハム演じる「アントニオ・サリエリ」が幼少時代、父の死を願い現実となり神に感謝する姿が自分自身に重なるような気分。
郁恵は背徳と開放の間で尋常ならない覚醒状態にあった。
武がこのまま病院で死亡すれば、、、どんな未来が自分に訪れるのかしら。。
重い足枷手枷が外され、漆黒の暗い牢獄のドアが今開かれようとしている。。。
ああ、、、このまま武が死ねば。。死んでくれれば。。
どうしよも無い背徳感の裏腹にある開放感に身悶えする郁恵なのであった。
* 17
下町の都道を最大音量でサイレンを鳴らし救急車が疾走する。
救命隊員の無線会話が緊迫度を増している。
脈拍と血圧がレッドゾーンまで下がり一刻の猶予もままならぬ状況にある。
チャージ、レディ、クリア! ついに AED 処置が始まった。
20分後、ER機能を持つ都立病院に運ばれた武はストレッチャーに載せられた。
蛍光灯に照らされた廊下を慌ただしく運ばれる武。
その光景を少し上から観ている自分に気付いた。
あれ?あれはオレだ。オレがオレを観ている。。。
浮遊しながら自分の身体を追いかけている「自分自身」が今のオレだ。。
そこに「真実」を突き付けられている自分がいる。
オレは死んでしまったのか?
なんとも理解ができない状況である。オレの意識は確かにある。
だが、オレの身体はあそこにある。
”おい!まて!オレはここにいる!!”と絶叫したが、予想通り誰も気付かない。
オイ、オイ、オイ、オイ!
そこのオレは本当に死んでいるのか?息はしてるのか?脈は?
武の「自分自身」が混乱している間にストレッチャーは集中治療室に突入した。
既にコンビニユニフォームは脱がされていたが、肌着をハサミで切り開き胸部全体に心電図の装置が装着された。
まだ微かに生体反応があるようだ。心電図が反応を示す。
一体どういうことだ?
オレは死んでないようだ。なのに「自分自身」は空中を漂っている。
オレはどうなってしまうんだ?
信じ難いほどの絶望感と今ある「自分自身」の意識の間で武は苦悩した。
* 18
”オーナーさんの状態はどうなんだ?”
地区マネージャーの城山が待合室で待機している佐山に駆け寄り尋ねた。
”あ、・・”
病院内に響き渡りかねない大きな声で返事しそうになったので城山が制した。
”佐山君、いいから!
それでオーナーさんの状態はどうなんだ?”
佐山は首を左右に振り深刻な顔して城山を見つめた。
”そうか。。。”
城山は眉間を指でつまみながら佐山の隣に座った。
”店は田村がフォローしています。奥さんも稼働中です”
佐山は低く抑えた声で伝えた。
”うむ。”
城山は頷くと、”君は此処に残れ。何か進展があったら連絡しろ”と言い残し病院を後にした。
営業車に乗り込んだ城山は地区事務所に電話を入れ何点か指示をした。
「オーナー死亡となると、、、厄介だな。。」
独り言を呟き、店に車を向けた。
・・・
”いらっしゃいませー!こんにちはー!”
つい、数年来の癖で入店のセルフ挨拶してしまい「しまった。。こんな時に。。」と後悔したが、努めて深刻な顔に戻し店内を見回した。
”おはようございます”
田村が抑え気味の声で城山に挨拶した。
城山は目で挨拶を返し、店内でフェイスアップしている幸子に近付き声を掛けた。
”おはようございます。君は、幸子さんだったね。以前お会いしたと思うけど、僕を憶えているかな。・・・いや、そんなことはいいんだけどね。幸子さん、よろしく頼みますよ”
”はい”
明らかに異なるテンションの返事だったが城山は深く考えず事務所へ向かった。
”奥さん、入ります。失礼します”
ドアをノックし入ると、郁恵が机に突っ伏して泣いている。。。
「うわ。。。。。。」と一瞬怯んだが、気を取り直し声をかけた。
”奥さん、店にもうひとりアシスタントを呼びました。もうすぐ到着します。そしたら、私と病院へ行きませんか?”
と伝えた。
* 19
追加アシスタントが店着すると郁恵を連れて車に乗り込んだ。
”奥さん、何があっても気を確かに持ってください”
そう一言だけ伝え病院へ走らせる。
・・
突っ伏して泣いていた郁恵にかける言葉が無かった。
ただ横で郁恵を見つめるしかない。
やがて郁恵が城山を向き口を開いた。
”城山さん、私、どうなってしまうの。。怖いわ。。。”
城山は唇を噛み締めただ”うん、うん、、、”と頷くしかない。。
・・
都立病院へ到着し城山と郁恵は佐山と合流し集中治療室へ向かった。
ドア上部に「面会謝絶」の表示が灯っている。
”あなた、、あなた、、死なないで。。”
郁恵の崩れ落ちるような哀願が院内に響く。
ガラス窓越しの武を見守る郁恵と城山、佐山。
”気をしっかり持って。ご主人は今闘ってる”
そう言って郁恵を励ます城山。
佐山は城山のダンディで芝居がかった言動が嫌いでない。
”カッコイイ・・・”思わず唸ったが、自分を恥じて俯いた。
・・・
5分ほど沈黙に包まれた。郁恵の押し殺した泣き声以外は。。
”奥さん、待合室に一旦戻りましょう”と城山。
泣き腫らした目に「悲惨極まりない感」が漂うが、城山も佐山も敢えて見ないフリをして1F大受付ホールまで降りて行った。
佐山と郁恵が奥のソファーに座り、城山は席を外した。
”奥さん、オーナーさんは強い人だと思います。きっと大丈夫です!”と声をかける佐山。
首を振るだけで会話にならない郁恵。
暫くしてベンディングホットコーヒーを両手に城山が帰ってきた。
”奥さん”と呼びかけコーヒーを差し出した。
郁恵は、”はっ”とした顔で城山を見つめ深々とお辞儀しコーヒーを受け取った。
コーヒーを飲み干すと、徐ろに城山が口を開いた。
”奥さん、何があっても、この城山、悪いようにはしません”
この言葉に、郁恵は勿論、佐山も胸を打たれ城山を見つめた。
”城山さん、ありがとうございます。ありがとうございます”
郁恵は、思わず城山の手を握りしめた。
両手を握り合い見つめ合う郁恵と城山。
その姿に惚れ惚れする佐山。
”奥さん、今日は1日中、ご主人に付き添ってください。それと、必要な物があったら、何でも佐山に言ってください。私はお店に戻りますから”
心の奥を射抜くような眼力で見つめぎゅっと手を握りしめてから席をたち、城山は病院を後にした。
* 20
佐山さん、色々とありがとうございます。
私、少し一人になりたいの。大丈夫かしら。。
何かあったら連絡しますね。ごめんなさい。
返事を待たず郁恵は席を立ち出口に向かった。
引き留めようかと迷う間もなく郁恵を見送る佐山。
「奥さん、大丈夫かな。。」
猛烈な不安に襲われたのだが、既に郁恵の姿は見えない。
ま、、スマホでの連絡は可能だし大丈夫だよな。。
佐山は、不安を払拭しようと前向きに考えようとした。
さて、少し時間が空くから持ち店舗の発注データチェックでもするか。
そう独り言を呟きながら大待合室の最も目立たない奥座席でこっそりノートパソコンを開きLTE回線で本部ネットワークに接続しデータのダウンロードを始めた。
「オイコラ!佐山!おま、オレが生きるか死ぬかの瀬戸際なのに仕事始めるんか!」
郁恵と城山が駆けつけて来てからずっと彼らの横にいた武だったが、城山が去り、郁恵が去り、佐山だけが残されて急に寂しくなったのだった。
「なんなんだよ、お前! 全く。。仕事、仕事、仕事。。こんな時くらいオレにカコつけてサボればいいじゃん。ほんと、お前ら、仕事中毒やなぁ。。」
武がいくら話しかけても誰も反応を示さないが、もうその状況にも慣れてきた。
「まぁ、今のオレは幽体離脱って状態だもんな。簡単に言えば幽霊みたいなもんだ。実際は死んでないけど、オレ幽霊。。なんか笑える。。」
幽霊になっても自虐に耽る武だが、それが武なのである。自虐こそが武の人生。。
佐山のノートパソコンに担当加盟店のデータが表示された。
他の加盟主が見ることのできない他店データがExcelシート一杯に表示されている。
げっ!隣のセブンって、こんな高日販だったのかよ。クソ!マジ腹立つ。💢
幽霊な自分を忘れて煩悩に取り憑かれる武。
な?、あのセブンも売上いいじゃん。。。??なんだよ。なんだよ。
おや、新店は苦労してるねぇ。。ふふ。今どき最初から50万円超える店なんて、そうそう無いんだよ。甘い、甘い。。
佐山の肩越しに熱心にデータを読み耽る武。
「こいつ、オレがお前の真後ろで肩に顎のせてるって知らないんだからな。。ふっ。。笑える。。」
武は幽霊も悪くないな。って脳天気に考えられるようになった。
「なんだよ、こいつ、耳の後ろのリンパ腺、スッゴイ腫れてるじゃん。何か病気でも持ってんじゃねぇのか?」
次第にイタズラ心が生まれてくるほど幽霊化してきた武。
「このまんま、1週間ぐらい幽霊でもいいな。マジで。ふっふっふっ。。。」
そう思うのであった。
* 21
それにしても、郁恵があんなに悲しんでくれるとは正直思わなかった。。
郁恵、オレをそこまで愛してくれていたんだね。
ありがとう。郁恵。オレも心から愛しているよ。郁恵!
郁恵のために必ず生き返るからね。
武は郁恵の愛情の深さを改めて知って心底嬉しかった。
郁恵!・・・・
強く郁恵の顔を思った瞬間、武は別の場所に瞬間移動した。
うん? なんだ?
ここはどこだ?
オレは病院にいたはずだが、。。。。
ここは・・・どう見てもスターバックスの店内だな。。
あっ! 奥の席に座っているのは郁恵!
郁恵! オレだよ! 武だよ!
郁恵! あんなにオレを愛してたなんて感激だよ。
郁恵!ーーーーーー!
ま、幽霊だからオレの声が届くハズも無いか。。。
郁恵、悲しませてごめんな!
生き返ったら、お前のために人生を捧げるよ!
愛してるよ!郁恵!
郁恵は悲しげな顔でブレンドコーヒーを飲んでいる。
なんとも愛おしい姿よ。
お前はミス青山学院大学だったもの。それは美しいに決まっているよ。
誰もがお前を欲しがる中、オレは何度もアタックしてお前を射止めた。
あぁ、あの頃を思い出すよ。
郁恵、今もお前の美しさはダントツだよ。36歳、まだ若いけど、だとしても、君の美しさは圧倒する美貌だよ。
20代の若々しさと、妖艶な色気を併せ持つ君は史上最強の人妻だ。
オレはなんて幸せ者なんだ! 改めて自分の幸福を実感したよ。
郁恵ーーーー!
うん?どうした郁恵?
急に輝くような笑顔。。。もしかして、オレが見えるのかい!
郁恵ーーーー!
”城山さん、ここよ!”
入店してきた城山に満面の笑顔で手を振る郁恵。
え、、え、、、え、、いや、、、え?
なに?
なに?
なんだってーーー?
* 22
城山竜也、30歳。東京都立大学卒、新卒で大手コンビニフランチャイズ本部に入社した。
178cm,68kg 脱ぐと凄い痩せマッチョ系だ。どことなく関ジャニの錦戸君に似た印象がある。少しハスキーボイスだが甘みのある声が特徴だ。
仕事中はオールバックのヘアスタイルで決めているが、オフの日は無造作に流した髪の毛と、スキニーGパン&ヘインズTシャツ姿でも様になる典型的なハンサム。それが城山だ。
結婚しているが、「オレの悩みはモテすぎるってことかな。。」って同僚に愚痴るほど現実にモテる城山。結婚後もバレンタインデーで「見知らぬ女性」からチョコを貰わない年は無いほどだ。
2人の娘にも恵まれている。家では料理もする愛妻家だ。会社のデスクには家族4人で収まった仲睦まじいフォトフレームが置いてある。
妻の百合子とは社内結婚だ。副社長の娘である。美人でスタイルもよく教養もある。アメリカの大学を卒業しており英語ペラペラだ。
ちょっとした職場体験のつもりで父親の会社に就職してみたが、配属後にオペレーション部の城山と出会い百合子の猛烈アタックで結婚に至った。
城山は仕事も有能であり百合子に出会う2年前の25歳で地区マネージャへ昇進していた。異例の超ハイスピード昇進である。
1年目から担当加盟店8店を全て売上前年超させ、苦境に喘ぐ低日販2店舗の「奇跡の回復」を遂げ頭3つ抜きん出る存在になったのである。
この「奇跡の回復」は今も語り継がれており、「城山マジック、城山イリュージョン」等と呼ばれている。
今思えば景気回復の波に上手く乗れた強運もあるが、運も実力の内。城山は「持ってる男」を証明したのだ。
更に副社長令嬢との結婚で注目度が増した城山は「統括エリアマネージャ」を確約されている。このポジションがどれほど重要で垂涎の的かは社内の誰もが認める。そう、確実に「社長への道」なのである。
前途洋々の城山。なのである。
・・・
”奥さん、どうされました? 電話で呼ばれましたので飛んできました”
城山が郁恵のテーブル対面に座った。
”城山さん、。。わたし。。”
火照って潤んだ目で見つめる郁恵。。。
”オイオイオイオイオイオーーーーイ! 郁恵ーーー!”
武が絶叫した。
*23
*24
"はい、佐山です”
・・・・
コーヒーでも飲んで暫く気持ちを落ち着けようかしら。
続く
*23
佐山真一、28歳。早稲田大学卒、新卒入社。
168cm、58kg。小顔で色黒だ。大学時代はラグビーに人生を捧げた。
4年間、控え選手だったし、1度も決勝戦でフィールドを駆け抜けることは無かったが、地区予選、準々決勝位までは不動のナンバー8を努めた。
残念ながら超絶スター選手が同期でナンバー8だったため、佐山は彼の黒子に徹する役回りに捧げた。
一見、ひ弱にすら見える佐山であったが、その恐るべき粘り強さと驚愕の打たれ強さが群を抜く強みだ。入社後、現場研修として副店長時代に20連続ワンオペ夜勤を見事に熟し、地区マネージャ城山の評価も高い。
副店長、店長時代、浅黒い顔で切れ長の目をした佐山は主婦パートはおろか、高校生バイト女子にもモテモテだった。
だが、店の女子に労いの言葉は掛けても絶対に誘いにのることは無かった。意思の強さが最大の長所なのである。
だが、猛烈な誘いをかわして生きていくのも困難が伴う。いつしか、見兼ねた城山が自身の経験談からアドバイスする仲になっていた。
そんな佐山は全人生を会社に捧げている。
佐山の実直で勤勉な姿は店舗店員以外からも認められる魅力なのだが、”今は仕事以外考えられません”が彼の返事だ。
大学では商学を学び、実家も商売をしている商売人血筋なのだ。
「今後の商売はコンビニモデル&システム抜きには存立し得ない」そう思い、早稲田商学部に進んだのだ。
卒論も当然ながら「コンビニ」がテーマだ。
ラグビー部で驚愕な裏方稼業を熟し勉学も抜かり無くオールAで卒業した。卒論内容の素晴らしさに「野村総研」から”特別枠”で入社をスカウトされたほどだ。
「身に余るお誘いですが、私はコンビニを徹底的に極めてみたいのです」と断った佐山。
流石に両親以外も「開いた口が塞がらない」と褒めていいのか。。苦悩した逸話がある。
だが実は別の理由が2つあったのだ。
1つは、幼馴染の恋人”翔子”、そして、英語が苦手。。だったのである。
TOEICで750点の基礎実力はあるのだが、会話ができない。どうしても、できなかったのだ。何が原因なのだろうか?佐山は真剣に悩んだが心的ストレス以外、他に理由を見いだせない。だが、原因がわからない。
そんな佐山
都立病院の大ホール(待合室)で1人黙々と各店舗データ分析を行っている。
まさか、近くのスターバックスでこれからとんでもない大騒動が起きるとも知らないで。。。
*24
"はい、佐山です”
病院内で突然鳴り出した呼び出し音に驚き着信番号の確認もせずスマホに応じた佐山。
コールミュートするのを忘れていて大慌てで電話に出た。
”もしもし?・・・もしもし?・・・・・”
着信があったものの応答が無い。
”もしもし? 佐山ですけど?・・・”
おかしいなぁ。間違い電話かな?と切ろうとした瞬間、
”あの、、、・・・幸子です。。。”
”幸子?・・さん? あ、あ、、あの、佐藤オーナー店の?”
”あ、はい、幸子ですけど。。。”
”幸子さん、どうされました?”
”あ、いえ、、あの、、オーナーさんの事が心配で。。。”
”あ、、そうですよね。いま、面会謝絶でして、、その。。”
佐山は突然の幸子からの連絡に少し動転した。
「何て言えばいいんだ。」
返事に詰まったが、曖昧に応えた。
”あ、あの、どこの病院でしょうか。。”
”都立城東病院ですが、、今は絶対安静の状況でして。。”
と伝えた途端、通話が切れた。
・・・
「・・・・、まぁ、そりゃ、心配だろうけどな。。病院に来られてもなぁ。。」
もしかしたら、お見舞いにくるのかな?と思ったが、突然着信し、曖昧なまま切れた電話に漠然とした不安を感じながらも、引き続き店舗データ分析へ気持ちを切り替えた。
郁恵からの連絡も無い、城山からの連絡も無い。地区事務所からの連絡も、他店オーナー、店長からの連絡も無い。
佐山は、暫く振りの静寂の中で仕事に没頭し時間を忘れた。
・・・・
幸子は午前中で店勤務を終えて帰宅させてもらっていた。
郁恵には午後勤務までお願いされていたのだが、どうしても体調が優れず本部社員の増員もあり、帰宅をお願いしたのだった。
1人アパートで休んでいたが、どうしても武オーナーの状態が気になる。
気になって仕方なくなって、手帳にメモしてあった佐山の緊急連絡先に電話したのであった。
「オーナーさん、大丈夫かしら。。奥さんと地区マネージャの会話が事務所から聞こえてたけど、かなり危険な状態じゃないのかしら。。。」
居ても立っても居られなくなった幸子は病院へ向かうことにした。
バスを乗り継ぎ都立病院近くのバス停で降りた幸子。
そう言えば、朝から全く何も飲んでいなかったわ。。
ふと見ると目の前にスターバックスがある。
ふと見ると目の前にスターバックスがある。
コーヒーでも飲んで暫く気持ちを落ち着けようかしら。
店内に入り、幸子はレギュラートールを注文した。
コーヒーを受取り座席に向かった先に、、、
城山と郁恵が見つめ合い座っている。。。
「えっ? なぜ、郁恵店長と地区マネージャ様が見つめ合っているの??」
手の力が抜けた幸子は買ったばかりのコーヒーを床に落とした。
バシャ!と床に溢れるコーヒー、注目を集める幸子。。。。
そして、幸子に気付く二人。
”さっちゃん!!、どうしたの!?”
思わず声に出して叫んでしまった郁恵。
”お、奥様、どうして??? どうしてなの???”
続く
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